2015年12月25日

☆三






三輪車の絵のついたセーターを着ている三太は、
散髪の帰り道、
三度目の流れ星を見た。

三回願い事を唱える練習を、
散々練習していたので次こそは
3パーセントくらいの勝算があった。

三太はその日の帰り道、
三度目にして、三年ぶりの流れ星を見た。

三度目のはずなのに、出会ったことにただただ驚き、
三角に目と口をあけたまま、ただただ嬉しくてたまらなくて、
散々練習していた願い事を唱えることをその後、
三十日も忘れていた。




2015年12月11日

春さんへ(一通目)



春さん、お久しぶりです。お元気ですか?
春さんはいまどこにいるのでしょう?
春さんがいなくなってから、しばらく経ちました。
春さんがここへすぐには、帰ってこないことを知っています。

春さんとの距離が、一年の中で一番離れつつある今日この頃、
私の足の小指は早速しもやけになりました。
ブラウス一枚で過ごす日々ってどんなでしたっけ?

春さん、何しにいずこまで。

いまはまだ採れたてもぎたて生まれたての冬さんですが、
今年の冬さんとは、仲良くしようと努力しているところです。

2015年11月8日

モグラは空を見上げては



モグラは思う。
人知れず、地面からこっそり顔を出して空を見上げては思う。

「ああ、今日もいい天気だな」

晴れでも雨でも曇りでも
雪でも雹でも嵐でも、
空を見上げては、モグラは思う。

「ああ、今日もいい天気でいい匂い」






2015年9月16日

ギターの下手な男と二秒間しか咲けない黄色い花の小競り合い






男のクサクサした心のクサで草原ができた。
そのクサむらの影で男はひとり、ギターの練習をはじめた。
クサクサしたクサった心で、毎晩毎晩、男はそこでギターを弾いた。

そのギターの音を聴きながら、
クサクサのクサはニョキニョキ伸びて、
小さな黄色い花を二秒間ほど咲かせた。

二秒咲いては枯れ、二秒咲いては枯れ、
毎晩毎晩、同じ場所で
クサクサのクサの花も
クサクサしながら少しでも長く咲く練習をしている。

花は言った。
「お前のギターの音がひどすぎるから、私達はすぐ枯れるのだ」
男は言った。
「お前がちゃんと穏やかな咲きかたをしないから、
 いつまでもいい音が出ないのだ」

男はその日も相変わらずクサクサした心のクサむらの影で、
咲いては二秒で枯れる黄色い花のそばで
クサクサしたクサった心で、ギターの練習をしている。
音痴だが、気まぐれに歌も歌ったりしている。

毎晩毎晩。かれこれ二十五年。

黄色い花は、前よりも少し長く、
およそ三秒間咲けるようになった。

2015年7月30日

Aloha `oe 夏休み突入編(1984)



年前の8歳の夏休みの前日、
少女は「ハワイ」という国をはじめて知った。
この年13歳になった少女の想像する「ハワイ」は、
この夏、5年間の想像通り、贅沢なものになった。

夏休みが始まったある日、早朝の学校に忍び込み、
自由気ままに、プールを独占した。
持ってきたオレンジジュースを、
持ってきた浮き輪に乗って、
誰もいないプールを漂いながら、お上品に飲んだ。

プールを独占しているその贅沢が
5年間少女が想像してきた「ハワイ」と重なって誇らしくなった。

そして小さな声で大きく叫ぶ。

「Aloha!」

それが13歳になった少女の、最高に贅沢な夏の思い出。



2015年7月11日

梅雨明ケヲ待チ遠シク思ッテイタ今日コノゴロ




「この世界ってこんなにまぶしいところだったんだ。」

と、

ここ二週間で、地球の中の日本という国の東京という場所に来ていた火星人たちは思ったに違いない。
地球人もそう思いました。

梅雨ガ明ケタヨウダ。




2015年5月1日

思い出レプリカ





懐かしくて嬉しかった思い出を、
時々引っ張りだしては、胸をときめかせて、心を弾ませて、
誰にも見られないようにひっそりと笑っていた。

「しかしその思い出は、以前あなたが
 まるで本物のように、精巧に作っていたレプリカですよ」と
誰かさんにささやかれた。

じゃあ本物の思い出はどこですかと訪ねたら
そんなものは、はじめから無いではありませんかと
誰かさんはそう言った。

わたし、前にあなたに会ったことがありますよねと
誰かさんにきいたら、
あなたが作ったレプリカの思い出の中で
会ったことになっておりますと笑われた。

あなたは私の絵をはじめて買ってくれた、
丸めがねをかけたあの人ですかと聞いたら、
誰かさんはそうですと答えた。

2015年3月28日

あこがれ 〜2015春〜


もやしのようにひょろひょろなのに、
この力の仕組みは、やっぱりどうしても不可解だ。

これからきっと、
雨に打たれて、虫に食われて、
人間に踏まれて、犬におしっこひっかけられて、
ぐしゃぐしゃになって干からびるかもしれないけど、
雨にも虫にも人間にも犬にも壊せない固い地面を
突き破ったという経験がこの人にはあるという事実に

何度出会っても未だに慣れない。

慣れないし、わからない。

わからなくて、楽しい。



2015年1月15日

口パクの歌声





コイは口をパクパクしながら
水面から顔を出している。

コイはたぶん、歌声が欲しかった。

覚えたての小泉今日子の歌を

コイはたぶん、歌いたがった。

だから、
コイは今日も口をパクパクしながら
水面から顔を出している。